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写真を撮る中で何かに迷ってしまったり、どうにも気持ちが乗らない時に開いてみる。
どの写真を見ても思うのだけど、もうこういう写真は撮れないんだろうな、という事。
ストリートスナップが法的にどうだ、とかの話ではなく、ここの写っている人々の表情を見て思う事だ。
木村伊兵衛が街に出てスナップしていたのは、戦前から戦後、昭和 30 年代までの頃だ。
もちろん亡くなる直前まで写真は撮っていたが、木村伊兵衛の代表作として挙げられるのは、殆どがその頃の物だ。
作家として脂の乗り切っていた時期だったのだろう。

時代としては決して良い時代とは言えないと思う。
戦前は戦争に向かって一直線に転げ落ちる頃であるし、戦後は本当に何もかもが灰燼に帰してしまった時期だ。
人々は疲弊し、夢や希望などというのは絵空事のように思った事だろう。
しかし木村氏の写真を見るに付け、時間を経る毎に確実に街は立ち直って行く様を実感できる。

冒頭に「もうこういう写真は …」と書いたが、それは人々の表情である。
僕の市井の人々の写真を見てもらっても分かると思う。
それは皆がすべて同じ表情をしている事だ。
否、皆がすべて無表情だ、と言い換えても良い。

時代の所為にして出来ない理由を並べ立てても仕方がない。
この時代を記録しておく事は、多分数十年後に意味が生まれるはずだ、と考えている。
その時、その時代には。
人々は一体どんな表情で街を歩くのだろう。

定本 / 木村伊兵衛