BGM は奇跡の名演で。
まぁ、アレな話だけど、名演ある所に「今剛 ( こん つよし )」あり。
Tag: Music
フェヤーモントホテル
「何か凄い…。ね」
うん
新聞の三行広告を見て、僕らはここに来た。
「ブラスリー・ドゥ・ラ・ヴェルデュール」は、もう満席になっていて、とてもじゃないけど桜を楽しめる雰囲気じゃなかった。
ま、散歩して帰ろうよ。
「うん」
僕らはお茶を諦めて出口に向かいかけた。
お客様、お客様
店から出てきたボーイが声をかけてきた。
はい?
「あちらのお客様が、もう席を立つからと」
ええ?
「どうぞ、ゆっくり桜をお楽しみください、と」
ボーイが指し示す方を見やると、年配の夫婦が今まさに席を立つところだった。
あの、すいません。ありがとうございます。
「いいえ、いいんですよ。もう随分長く居ましたから」
ご婦人は柔らかい物腰の上品な方だった。
ご主人も傍らでニコニコしていらっしゃった。
「桜を見にいらしたのでしょう?」
はい。
「このホテルは暖かい雰囲気がして良い所」
はい。
「どうぞ、ごゆっくりね」
はい、ほんとありがとうございました。
「ごきげんよう」
僕らは二人を見送って席に着いた。
ん?
彼女は目を赤くしている。
どうしたの?
「夢でも見てるようだわ」
何が?
「歌に出てくる人たちみたい」
それから二年後の冬、静かにそのホテルは歴史の幕を下ろした。
あのティールームも、外光に柔らかく光る髪も、今は昔。
ひゅるりら
メールの着信音がする。
添付されていた画像ファイルを開くと、彼女の掌に桜の花が一輪。
それと「咲きましたよ」と短い言葉。
駅の構内で、何処からか聞こえてきたケツメイシに景色が潤んだ。
さくらだより 1
昨日、土砂降り、横殴りの雨の中で思い出した歌。
きっと同じ
始まることも
終わることも
きっと同じだね